欧州時間 4月15日付で告知された ISUコミュニケーション 1557。
内容は新シーズンに向けてのルール変更で、6月1日に発効、以降の公式試合に適用されます。
http://isu.sportcentric.net/db//files/serve.php?id=1427
今後も追加のコミュニケが出ることもあり得るかもしれませんが、少し前までは 08/09 シーズンのルールのまま五輪を迎えるという情報もあったことを考えると、この1557が 年度適用の全貌に近いかと思われます。
今回の改正、日本のWEBニュースやテレビ等でも既に、ジャンプの回転不足についてのいわゆる二重減点の是正として解説されています。
しかし その内容の実際は、それ以外にも多岐に渡るので、その概要を4本柱にまとめて、以下に かいつまんでおきたいと思います。
< 内容について、誤謬がありましたら、諸兄諸姉のご指摘を賜りたいと存じます。>
< 追記 : 5月11日付で、日本スケート連盟版の和訳が公開されました。
http://www.skatingjapan.jp/jsf/News/comm1557J.pdf >
テクニカルパネル、演技ジャッジ、それぞれの領分に分けて考えると良いかと思われますが、それに際しては 12月20日のブログエントリーもご参照ください。
http://miki-ando-and-fans.seesaa.net/article/111458479.html
■ [T] テクニカルパネル(TP)と 演技審判団(ジャッジパネル、JP)とによる二重減点の回避
今回、演技審判によるGOE(Grade of Execution)の判定において、ジャンプについては URマーク(<)がTPから開示されない状態、しかもスローモーションが示されない状態で、JP独自になされることになりました。
採点の独自分担を進める方向としては この他 :
スパイラルの姿勢保持時間は、TPによるレベル判定のみの対象とし、ジャッジは考慮に入れないことになりました。
逆に、スパイラル中に フリーレッグが既定のヒップレベル以下に一旦落ちてから戻っても、TPはそれでポジションの回数増減をとらない、JPによる演技の質の採点に任せる、と記されました。
wrong edge (eマークや!マーク)については、TPによるレベル減価がもともと無く、従来どおりジャッジパネルに示されますが、「e」と「!」のJPでの扱いが指定され直しました。 どちらも後述のように GOEマイナスが付き、「e」については最終GOEのマイナスが義務付けられました。
TPにより価値(レベル)無しと判断された演技要素についてはしかし、これまでどおりTPの判断が優先、JPに伝達され、TESの計算からも除外されます。 その例として、スパイラルシークエンスで 3秒以上持続するポジションが一つしかなかった場合は レベルがゼロ、つまり配点ゼロとなる、とあります。
■ [U] TPによる エレメントの認定やダウングレード等のコールに関する改変
ISU コミュニケ 1494 の10ページ以降にあった、TPのためのレベル判定基準の表が1557の中で改正・更新され、 08/09 シーズンに比べての変更点がアンダーラインで示されています。
【1】 TPによるジャンプの判定、ダウングレードやエッジコールは従来どおりです。
【2】 ステップのレベル獲得要素のうち、方向転換について、「ターンおよびステップによる」という表現となり、例示が無くなりました。
<解説部分では「ランニングステップ」がステップの種類として加えられました。>
【3】 スパイラルのレベル獲得要素のうち、2つめの「難しい姿勢」が有効要素となるためには、脚替えをしただけではだめで、別の難しい姿勢が脚替えと同時に必要なことが明記されました。
【4】 スピンのレベル獲得要素については、誤解を避ける表現に直したほか、レイバックスピンについての特典付加条件を、コンビネーション内のレイバックについても適用としました。
脚替えのあるスピンについては、片方の足ごとに、得られるレベル獲得要素の最大が3となりました。
<解説部分では、シットスピンの深さが厳しく定め直され、これまでに加え「スケーティングレッグ(支持脚)の膝上部分が最低でも氷面と並行」と書き加えられました。
また、エッジ替えについては、基本姿勢の場合のみ有効要素となるのに加え、新たに、そのために各エッジで最低2回転が必要なことが再確認されました。
さらに、バックエントランスとビールマンについて、有効要素としてカウントするのは、SP・FSともに1回のみとし、複数回なされた場合は最初のものだけを有効とすることになりました。 ビールマンは旧シーズンでは2回有効だったのが1回に減ったことになります。>
■ [V] 演技審判員(JP)側でのTES減点に関する改変
ISU 1494 のGOE減点表は、ISU 1557の中で改正・更新されました。
表現が整理され、左半分が最終GOEがマイナスであることが義務づけられた演技ミス、右半分がその義務の無い演技ミス、という表示になりました。
また、シングルジャンプと ジャンプコンビネーション・シークエンスとがひとまとめにされるなどして、「ジャンプ」「スピン」「ステップ」「スパイラル」に分類が整理されました。
ジャンプ関連:
【1】 前述のように、回転不足でダウングレードに至ったジャンプにつき最終GOEのマイナス義務が無くなりました。
ダウングレード自体がJPの採点に際し、知らされません。
各ジャッジは回転不足と判断した場合、程度に応じ、−1から−3のGOEとします。
ジャンプの他の側面が加点に値すれば、最終GOEが+2 となることもあり得ます。
【2】 「e」マークの不正エッジのテイクオフについては、GOEは−2か−3、最終GOEのマイナスが義務づけられました。
「!」マークの曖昧エッジのテイクオフについては、GOEは−1か−2、最終GOEのマイナス義務はありません。
【3】 「スピード・高さ・飛距離・空中の姿勢が劣っている場合」が新設され、GOEが−1から−2 となりました。
【4】 コンビネーションジャンプにおけるセカンドジャンプでの転倒は、GOEが−2から−3になりました。
【5】 コンビネーションジャンプにおける「ジャンプ間のリズムの欠如」という項目が廃止されました。
【6】 ショートプログラムで、必須回転数に満たない場合の最終GOEマイナスが義務づけられました。
【7】 ショートプログラムで、必須コンビネーションが単独ジャンプに終わった場合の最終GOEマイナスが義務づけられました。
【8】 補足説明部分に、ISU1494の時からあった「テイクオフが劣っている」という GOE減点項目の、具体的演技エラー例として、体が前を向いてしまうような(*)プレローテーションや、トー・ジャンプなのにフルブレードを氷につけてのテイクオフ、というのが新たに挙げられています。
<* アクセルでは後向きに至るような>
<* ISUによる 「Cheated take off」の定義は 「First Aid」によれば、
「明らかな前向きの離氷(アクセル以外の例)」となっており、
「トーループで最もよく見られる」「TP は cheat離氷 の認定やダウングレードに際し、通常速度のリプレイしか見てはいけない」等の説明があります 。 *印は 6月11日 追記>
スピン関連: 採点項目が整理・合流されて減りました。
【9】 フライングスピンにおける転倒が、他のスピンに統一されて最終GOEマイナスが義務づけられました。
【10】 既定回転数に満たない場合のGOEが、旧「−1〜−3」から 新「−1〜−2」となりました。
【11】 ショートプログラムでは逆に、既定回転数に満たない場合のGOEが、旧−2 から 新−3 となりました。 最終GOEマイナスの義務は変わりません。
ステップ関連:
【12】 「速度が遅い」という項目が無くなり、「ステップ・ターン・ポジションが劣っている」という項目ができました。
【13】 「正しくない軌跡」についてはショートプログラムのみの適用となり、GOEも 旧「−1〜−3」から 新「−1〜−2」となりました。
スパイラル関連:
【14】 「ポジションが軌跡の半分以下」の場合のGOEが 旧「−1〜−3」から 新「−2〜−3」、かつ最終GOEマイナス、と厳しくなり、また、実例があったのか、「転倒」が最終GOEマイナスにて新設されました。
【15】 「姿勢が劣っている」「つまづき」「エッジの質が低い」という3項目が演技ミスとして新設され、スパイラルの採点は新年度から全体に厳しくなるのかも知れないと感じさせます。
■ [W] 演技審判員(JP)側でのTES加点に関する改変
ISU 1505 「プラスGOE 採点ガイドライン」も、ISU 1557の中で改正・更新されました。
加点GOEの判断項目が各演技で旧6から新8に増設された一方、推奨基準が次のように多少厳しくなりました。
「+1」のための該当項目数 =2 <旧「1または2」>
「+2」のための該当項目数 =4 <旧「3または4」>
「+3」のための該当項目数 =6 <旧「5または6」>
増設項目で目をひくのは「ジャンプ」「スピン」「ステップシークエンス」「スパイラルシークエンス」全てに加わった「音楽の作りとの一致」です。 音楽とのシンクロが加点に向けた要素となると思われます。
また「楽々と滑りきる」というのがジャンプとステップについて新しく設けられています。
さらにはスパイラルシークエンスでの「全体を通してクリーンエッジが持続」というのも目に止まります。
全体的に、この加点基準は実質的な重複も散見され、未だ洗練・整合の余地あり、とも言えるかもしれません。
■ 実際の運用は
ISU 1494 の Scale of Value (SOV、基礎点数と対応GOE換算の一覧表) は新シーズンも生きています。
ですので、たとえば、トリプルループがダウングレードされてダブルループとして扱われたとしますと、これまでどおり、基礎点は 5.0 から一気に 1.5 に減ります。
しかし、ジャッジ側にとって「<」マークもスローモーションも無い新シーズン、旧シーズンの義務的な GOEマイナスからは自由になります。
目視状態によっては回転不足をジャッジ側は採らず、他の要素を加味してGOE+3も理論上あり得なくはないかもしれません。(実際はこうした場合+2どまりと想定されます。)
そんな場合はダブルジャンプはSOVの表にて GOEの加点側のほうが配点上 大きいこともあり、旧シーズンより1〜2点 有利になると考えられます。
コンビネーションのセカンドジャンプがダウングレードされた場合などは、特に、全体に対し強制されていた最終GOEマイナスが外されるわけですから、ファーストジャンプの質が正当に評価されやすく、改正の効果はさらに大きくなるはずです。
このように、リスクを初めから回避してダブルにしたほうが点数が得やすい、という現状がかなり改善されるところが重要と考えられます。
しかしそのためには、演技審判団に回転不足の先入観が無いことも条件になるなど、実際の運用状況を見ないと、今回の改正の良否はしかし、言い切ることは出来ないかもしれません。
4回転ジャンプについて、あるいはスピン・ステップ・スパイラル全般の中から、よく話題になる演技要素を新ルールでトレースしてみることで、色々発見がありそうです。
選手の置かれている状況がファンにも少しは解るのではないか、そんな無謀な想いもついつい抱きます。
今回の改正、皆様はどう 読まれますでしょうか。
posted by administrator at 14:22
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