2010年05月30日

ボーナス点のゆくえ〜ISU総会への日本の追加提案

5月26日、ISU 総会の追加議案候補が 25日付のコミュニケ 1615 として発表されました。

http://isu.sportcentric.net/db//files/serve.php?id=1875

先日のコミュニケ 1609 で発表された総会議案書の各提案 (重要なものは こちら ) が、それぞれ期限前に提出された正規のものであるのに対し、 こちらは期日後に追加提出されたもので、総会出席の8割以上の投票権者(国)の認証があれば議題として扱われる、というもののようです。
そして案件自体の緊急性の有無にかかわらず、期日の関係で「緊急事項」と命名されています。



このコミュニケ 1615 の中に、フィギュアに関するものとして、ISU 理事会の提案・フランスの提案・日本の提案、それぞれ1つずつがあります。

ISU 理事会からの追加提案の趣旨は、五輪競技に フィギュアスケートの団体戦が組み込まれた場合は、ISU 理事会が IOC と協議の上、その実施上および技術上の詳細を定める、というものです。

フランスからの追加提案の趣旨は、五輪開催年については ヨーロッパ選手権と四大陸選手権を中止し、その時期に世界選手権を持って来る、というものです。

そして 日本からの追加提案は、これまで ISU ルールに規定されているにもかかわらず実際に運用されたことの無い ボーナス点の制度 について、その獲得条件を少し変更することで、スケーター達の積極的挑戦を促そう、という趣旨のものです。



この日本の提案だけは たしかに、「緊急事項」の名に値するかもしれません。
というのは、実は ISU 技術委員会から ボーナス点制度の廃止が 既に今回、他の重要議案とともに提起されていて、ISU 側の提案であるがゆえに、その廃止案が通る可能性が たいへん大きいからです。


これまでの ISU 規定では、ボーナス点について次のようになっていました。 (これまで適用実例はありません。)

[ Rule 353, paragraph 1) h) iv) ]
革新的な演技要素、動作、あるいはトランジション(つなぎ)には特別ボーナスの2点が与えられる。
このボーナス点は一つのプログラムにつき1回しか獲得できない。

[ 同 1) h) v) ]
ボーナス点は(もし獲得された場合は)Total Technical Score(おそらくTESに同義)に加算される。

[ Rule 522, paragraph 1 e) ]
ボーナス点
他に例が無く、特別な、そして革新的な動作*(* 広義)には、Well Balanced Program の規定の要素数以内であれば、あるいは同規定に挙げられていない特異なものであれば、ボーナスとして2点が与えられる。
これは、同じ技をやる他のスケーター/ペアがいないというのでないかぎり、最大1シーズンの間しか与えられない。
同一試合で同じ技を行うスケーター/ペアがいた場合、双方にボーナス点が与えられるが、その場合はその競技以降は、この技へのボーナスは与えられなくなる。
ボーナスは テクニカル・スペシャリスト(達)がこれに該当する場合に指摘し、テクニカル・コントローラーがこれを確認し、ISU の事務局に直ちに報告する。


これを、JSF は次のように変えるよう提案しています。

[ Rule 353, paragraph 1) h) iv) ]
類を見ない演技要素、そしてその日実施された最も難度の高い演技要素には、ボーナス2点が与えられる。
ボーナスは一つのプログラム内では最大2つ与えられる。
該当する演技要素は予め技術委員会で定め、シーズンの始まる前に ISU コミュニケの中に記述される。

提案理由として、難しい技への挑戦の意義が強調されています。



ボーナス点制度の廃止は、今回 ISU の技術委員会から出された総会議案 184、227、230、251 に謳われており、「これまで利用されたことがなく、実際的でない」 という理由が挙げられています。
これに対し、日本からの提案は、「では実際的なレベルで利用できるようにして初期目的を果たそう」 という趣旨の訴えをもって、廃止を食い止めようとするものと思われます。

賛成国が多いかどうかで考えると、日本の提案にはプラス・マイナス、両面がありそうです。

プラスの面 :
ご記憶の方も多いと思われますが、2〜3年前には、3回転ジャンプを5種類全て一つのプログラムで成功させた場合はボーナス点を与えるべきだ、という議論が頻繁にありました。
ボーナス点が競技参加者の全体的水準を上げるインセンティブとして機能するであろうことは、この例からも、容易に想像できますし、誰もが反対しにくい側面です。

マイナスの面 :
ボーナスの適用にあたり、技術的な難度に重点を置いている提案とも読めるため、他の国にとってはジャンプへの日本の偏り、自国の有利化と感じられる可能性があると思われます。
たとえば 3Aに対しボーナスをさらに与えよ、という提案のごとく受け止められると、反対者が多くなるかもしれません。



ISU 自身からの提出議案と異なり、そもそも、各加盟国からの個別提案が総会で承認採用に至るということはあまり無いようですし、この日本の追加提案には Rule 522 についての関連事項が伴っていないなど、暫定的な記述の様相がみられるので、審議に付されるかどうかもよく判りません。

ここは今度の総会での勝算の有無で評価するよりも、今後のボーナス制度再検討への基礎的な布石として把握するのが妥当かと思われます。

なかでも、日本の追加提案に付記されている、提起理由の部分には、普遍的な説得力があると思われます。

「それぞれの時代にあって、より難度が高い内容を思い描きこれに挑戦することは、フィギュアスケートが競技である限り、選手にとって普通の考えに違いない。 フィギュアの発展のために、競技の規則はその心意気を支え、難しい挑戦が成功した場合にはこれを適切に評価するものでなくてはならない。」

これが ISU のコミュニケに載っていることに、頼もしさを感じました。 選手を鼓舞し、チャレンジを促す方向でのルール改正が、フィギュアスケートという競技そのものへの注目、関心を集め、そのさらなる発展に寄与するものであることは、まちがいないだろうからです。
 
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2010年05月13日

ファンの数だけ、夢がある

およそファンにできること、それはもちろん「応援すること」の1点に尽きるのですが、リンクに描く「夢」を もしも選手と分かち合うことが片鱗でも許されるなら、ファンにとって これ以上の喜びはないでしょう。

夢は見果てぬもの、限りなく膨らむのが性(さが)です。 ですから、ファンが抱く とめどない多様な期待は、それを選手が選手自身のために自由自在に咀嚼し、そしてその選手が理想とする演技に向けた、ひとつのエネルギー源として頂ければ・・・

「私の見たい安藤選手」は、そんな目論みのアンケートではありました。



ご回答を頂いた皆様、ありがとうございました。 メールの分を含めた結果は → こちら に別掲のとおりですが、以下、順番に見ておきたいと思います。


[問1] ここでは、安藤選手が現役の競技者であることからか、やはり何と言っても試合の採点システムに呼応した進化をファンが期待しているのが表れている、と見ることができるのではないでしょうか。 実際の評価に結びつきやすい順になっていると考えられるからですが、このところ 芸術性のほうで長足の飛躍を見せて頂いたので、今度はそれ以外の面にもう一度 期待が集まっている、とも言えるかもしれません。

[問2] 主として TES の内容についての設問ですが、ご覧のとおり、ジャンプに関するものが圧倒的に多く、また、PCS(およびTESのGOE)に関連する「つなぎ」への関心が突出しています。 ファンにとって、採点が(気にするなと言われても)気になるのが良く出ていますが、ジャンプについては安藤選手のもともとの個性へのファンのこだわりが出ているに違いありません。

[問3] それはこの設問に良く示されていると思われます。 3Lz3Lo への圧倒的集票は、ファンが選手とおそらくは同じように このコンビネーションへの思い入れをたいへん強く持っている、ということでしょう。 自由回答にて、フリースケートでの3Fへの期待が書かれていたのも印象に残ります。 エッジ修正へのファンの誇りのようなものが感じられました。

[問4] PCS の5項目にほぼ沿った質問です。 スピード(体力・ストライド)へのファンの願いが強く(SS)、また、安藤選手の演技からほとばしる感動を何度でも味わいたい(PE)、という想いが出ていると見られます。 全体に他の設問での回答と矛盾する側面があり、振付や解釈への期待はここでは少数です。 設問に使った文面でなく PCS 各々そのまま記号での表示であったら、違った結果になったかもしれません。

[問5] この設問は票が割れました。 しかしその中でも、「誰もが知っていて親しみやすい曲」が優勢だったことと、それ以上に「純粋に音楽そのものを表現」して欲しいという期待がたいへん顕著だったことは特筆すべきと思われます。

[問6] SPでは宮本賢二氏の圧勝です。 高橋選手での大成功、安藤選手自身の「ボレロ」が傑作であったことなどが背景にあるのでしょう。 他、「あり得るなら」という設問にもかかわらず、モロゾフ氏が善戦しています。

[問7] FSでも宮本賢二氏が1位のほか、リー=アンが2位。 また、タラソワ女史がウィルソン氏、モロゾフ氏に次いで票を得ているのが目を引きます。 問6 とともに、ファンは振付を通じて 安藤選手の色々な側面を引き出してもらいたい という、贅沢な願いを持っている、と言えそうです。

[問8] シンプルで上品な衣装への期待が、安藤選手でなければ着こなせない個性の強いものに対し、2.5倍もの票を得ています。 これは 09/10 シーズンで後者が続いたことへの反動もあるでしょうし、たとえば直近では名古屋フェスティバルでの可憐な衣装が、安藤選手の美しさを際立たせていたこと等も影響したかもしれません。 なお、技が映えるような衣装を、という趣旨の言及が2つありました。

[問9] ここで寄せられた回答には、エキシビション用という形を借りて、競技用のプログラムへの期待が込められている場合が少なくないとも考えられます。 実際に、この設問項目で競技用に言及された方もおられます。 ファンの方々が安藤選手の多面的な個性をどうとらえているかが、音楽の形を借りて示されているとも考えられます。 (皆様からの具体例を こちら にまとめてあります。)

[問10] これは「怪我の防止」にファン全員の想いが込められている、と言えそうです。 他、体力・栄養、柔軟性、他芸術からの刺激吸収、これらに票が集まっています。
ファンとして、一番大切に想う選手が痛い思いをするのは偲び難いというのはもちろんですが、この設問への答の中には、安藤選手にとっては これからこそが、その潜在能力をフルに発揮する まさに正念場であるという感覚 そして願いを、ファンの皆が持っていることが、顕著に現れているのではないでしょうか。



・・・
今回の企画、どの回答も 安藤選手への溢れるばかりの想いと優しさが込められているのを、読者の皆様も感じられることと思います。
個々の得票の分布はさておき、ぜひその点は特筆させて下さい。

一方、得票を見ますと、ファンにとっての安藤選手のスケーティングの魅力は、もちろん共通項も多くありますが、細部に関しては、やはり受け取る人それぞれの多様性があります。
しかし思えば、これほどたくさんの期待と色とりどりの夢を抱かせてくれる安藤選手は、やはり、稀有な存在と言うほか ありません。

ここに集まったファンの皆様のこうした多様で、かつ尽きせぬ願い、
どうか選手はそれを重荷とせず、振り返りたい時に 軽やかな気持ちで受け止めて頂ければ、
・・・皆様の回答の端々には、そうした心遣いさえも、はっきり うかがえるように感じます。

そうは言いつつも、アンケートの全項目の全回答にわたり、ファンの偽らざる正直で熱い願いを読み取らせて頂くとすれば、それは、安藤選手が折々に見せる眩いほどの輝きをこれからも何度も見たい、見せて欲しい、見せてくれるはずだ、そういう、おそらくは抑えきれないような真剣な想いなのではないでしょうか。



皆様はどのように受け止められていますでしょう?

今回も、下のコメント欄を開けておきますので、皆様の印象・お考えを頂けると幸いです。 お待ち申し上げます。
 
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ISU 1611の概観 (その2 〜ステップ、スパイラル、スピン)

その1 からの続き>

スピンについては項目が多く、煩瑣な記述にならざるを得ないため、ISUの記載順には従わず、エントリーの最後のほうに ご紹介します。

[ステップシークエンス]

☆ レベル獲得の要件のうち、項目の選択肢は1つ増えたものの、必須項目の達成条件が厳しくなったり、ターンの組合せによる選択要件が難しくなったりしています。
全体にレベル獲得条件が難しくなったのかどうかは、微妙な感があります。

K)
レベル必須要件である、ターンおよびステップの多様性/複雑性のうち、ターン(*) に関して要求数
   「やや多様(レベル2)」について 6つ から 7つ に、
   「多様(レベル3)」について 8つ から 9つ に、
それぞれ1つずつ増えました。
<(*) スリーターン、ツイズル、ブラケット、ループ、カウンター、ロッカー>
繰り返せるのは、各種類それぞれ2回までである点は変りません。

L)
レベル要件の選択肢である上半身の動きについて、全レベルについて統一内容となり、 同時に、内容自体が特定され、
「体幹(body core)のバランスを左右するような、かつ 目に見える、腕・頭・胴 の動きであって、その合計がステップシークエンスの軌跡全体の 2/3 以上になるもの」
と表現されました。

M)
レベル要件の選択肢が1つ増えました。 その内容は、
軌跡の半分以上を片足で行う」 というものです。

N)
「ターンおよびステップによる回転方向の素早い転換」 となっていたレベル要件の選択肢が
難しいターン(ロッカー、カウンター、ブラケットまたはツイズル)の組み合わせを、すばやく、そして両回転方向に、シークエンスの中で少なくとも各回転方向につき2回実施
となりました。

O)
レベル1 と 2 において、GOE−3の実配点が −1.0 でなく −0.9 となりました。


[スパイラル]

P)
スパイラルシークエンスは ベースバリュー(BV) が一律 2.0 となり、「Choreo Spirals」 と命名されました。
これは、来月の総会に向け ISU 自身が提案している内容と呼応しています。
(名前自体は 「演技構成要素としてのスパイラルを指し、つなぎ演技のそれとは区別」 という意味ではないかと想像されます。)
加減点は GOE+33.0 から GOE−3=−1.5 まで分布。

BV は従前の レベル1と 2の 中間くらいである反面、GOEのプラス側(加点側)がたいへん大きくなっています。

なお、「Choreo Step Sequence」というのも創設されていますが、こちらは男子FSの2つめのステップシークエンスもレベル設定が廃棄される という総会提案との整合を図るものと理解されます。


[スピン]

☆ レベル獲得要件の選択肢の数は変らないものの、そのうち6つが変更、5つが難しい方向の改変であり、さらにその他の特記事項も条件がきつくなっているので、たいへん厳しい内容になった感があります。

(注:以下で「基本ポジション(基本姿勢)」とはシット、キャメル、アップライトのこと。 レイバックやビールマンはアップライトの変種、「ポジション(姿勢)」とはこの3つに中間姿勢を加えたもの。)

Q)
レベル要件の選択肢「2」の「基本ポジションでの 別の難しいバリエーション」において、最初の姿勢バリエーションとの差を明確にすることが強調されました。

足換えのある単独スピンの場合は、最初のとは逆の足になってからの、かつ最初のとは別の難しい姿勢バリエーションであること
足換えの無いコンビネーションの場合は、最初の難しい姿勢の時とは異なる難しい姿勢バリエーションであること
足換えのあるコンビネーションの場合は、最初のとは逆の足になってからの、かつ、最初のとは異なるポジションでの難しいバリエーションあること

(旧シーズンはあった、足換え無しの単独スピン内での2番目の難しいバリエーションの工夫は、レベル要件からは外れました。)

R)
レベル要件の選択肢「3」が、旧 「難しい足換え」 から、新たに 「ジャンプによる足換え」 と内容が特定されました。

S)
選択肢「5」の 「一つの基本姿勢での明確なエッジの変更」 が、次のように限定された場合にしかレベル要件としてカウントされなくなりました。
−シットスピンで バック・アウトサイド から フォア・インサイド へエッジ変更した場合
−キャメルスピンでエッジ変更した場合

T)
選択肢「6」の文言が、意味のある部分だけを抽出して 「全ての基本ポジションを両方の足で達成」した場合、となりました。

U)
選択肢「7」の 「ただちに続けて行う両方向のスピン」 が シットスピン または キャメルスピン にだけ適用されることになりました。

V)
レイバックスピンでのレベル要件である 「バックからサイドまたはその反対に1回の姿勢変更。各姿勢少なくとも3 回転。」 について、このレイバックがコンビネーションスピンの一部であった場合にも要件を満たすのみならず、1つのアップライトスピンの姿勢変化の中で行われた場合も(当然ながら)認められることが確認されました。

W)
バックエントリーのみならず、エッジの変更、難しい姿勢バリエーションのそれぞれ、これらのいずれについても、1つのプログラム内においては、最初の1回のみしか、レベル獲得要件として計算されないことになりました。
(注: 内容の異なる 「難しい姿勢バリエーション」 はそのプログラムで初出の時は、計算されます。)

X)
足換えを伴うコンビネーションスピンでは、基本ポジション3つを全てを含むこと」 が、旧シーズンでは SPでのレベル2〜4、FSでのレベル4 の必須要件でしたが、
新シーズンでは、SP、FS、ともに レベル2〜4獲得の必須条件となりました。

また新たに、「足換えのある単独スピンでは、どちらの足でも最低1回の基本ポジション」というのが、SP・FS ともにレベル2以上を獲得するための必須条件となりました。

Y)
さらに、「足換えを伴うスピンでは、一方の足で獲得することができる項目の数は最大3個である。」
「最大2個」 に変更になりました。

Z)
SOV にて、スピンの GOE−3 の減点実数値が −1.0 から −0.9 に緩和されました。



・・・
これらの改変がどのような変化となって実際の演技に現れてくるか、想像が追いつかない部分があります。

しかし、仮にもし、字面の印象どおりに スピンやステップでレベルが獲得しにくくなるのだとしても、その分、GOE やPCS の獲得に各選手・コーチのエネルギーが向けられるのではないかとも考えられます。
GOE加点表は旧シーズンのままですし、PCSのガイドラインは変更の発表が無いからです。

ISU議案の、スパイラルのSPでの廃止や FSでの固定レベル化も、その GOE や PCS への全体的傾倒、つまりは演技ジャッジへの依存度が いっそう大きくなることを示していると考えて間違いなさそうです。

反面、報道されているように、高難度のジャンプが優遇されるのも確かなことのように思われます。

その双方を感じる中、今回のコミュニケが、各スケーターの個性を発揮しやすくする変更、スケーター間で同じ内容が繰り返されることが少なくなるルール変更、そういうものであることが シーズンが進むにつれて判明することを願いたいと思います。

皆様からも、気づかれた点など、ご指摘頂ければ幸いです。
 
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2010年05月09日

ISU 1611の概観 (その1 〜ジャンプ)

ISU は 6日に、4日付の コミュニケーション 1611 を発表し、7日夜、日本でもいくつか報道がありました。
 
この 1611 は何の発表かと言うと、
   1) 一昨年のコミュニケ 1494 の Scale of Value (SOV、各演技エレメントの価値尺度表)の改訂
   2) 昨年のコミュニケ 1557 の レベル獲得条件表改訂
   3) 同 1557 の Grade of Execution (GOE)の減点表改訂
そして、
   4) 同 1557 の GOE 加点ガイドラインのそのままの継続、であり、
新しい 2010‐11 シーズンから適用されるものです。

2)は テクニカルパネル(技術審判員)が、
3)と 4)は ジャッジ(演技審判員)が、それぞれ依りどころとし、
これらの 採点集計上の実点数が 1) となります。

そして、これは一つ前のエントリーでご紹介した コミュニケ 1609 (ISU総会議案書)のルール変更案とは異なり、ISUルール353 の「運用」ということで 加盟国の採決を通さず、ISUが直接発行する形をとっています。
ただし一部に 総会議案との連動があるので、今年は例年と異なり、総会後、6月後半の発効になるのではないかと想像されます。

<なお、フランスがこうした SOV等を 「運用」でなく ルール353 に包含させ、審議の対象とするよう、今回の総会に 議案161 として提起していますが、仮に採用されても、その次のシーズンからになると思われます。>



さて、ニュースで強調されていた内容は、今回の変更の一部にとどまりますので、以下、簡単に概観を試みたいと思います。

全体的にまず言えそうなのは、今回の改定が、テクニカルパネルの判断を減らし、演技ジャッジの判断を増やす方向にありそうだ、という点です。

[ジャンプ関連]

☆ 来シーズン、テクニカルパネルが ボーダーラインのジャンプを、悩まずに 回転不足扱い(BV7割)にする という可能性、 あるいは今回の文言 「離氷 および/または 着氷」 の読み方しだいでは、これまで以上に1段階ダウングレードを選手が取られやすくなる可能性も、考えられなくはありません。

2Aの反復の抑制と、高難度ジャンプ挑戦の奨励を、基礎点数から読むことができます。

行きすぎた加点の抑制、また高難度ジャンプ失敗のリスク軽減も同様に読み取ることができそうです。


A)
ジャンプの 離氷 および/または 着氷 において 意図した回転数より 1/4回転を超え 1/2未満 の(合計?)不足の場合は 「回転不足(UR)」として扱われ、その 「<」 マークは 演技審判の採点にあたり開示されます。
ベースバリューは 0.7倍 扱い。
GOE は +、−、ともに もともと意図したジャンプのものを適用し、 「<」による GOEマイナスは −1〜−2、 ただし 最終GOEは自由。

B)
ジャンプの 離氷 および/または 着氷 において 意図した回転数より 1/2回転以上 の(合計?)不足の場合は 「ダウングレード(DG)」として扱われ、その 「<<」 マークは 演技審判の採点にあたり開示されます。
ベースバリューGOE、ともに 意図より1回転下のジャンプとして扱われます。
「<<」による GOEマイナスは −2〜−3、 そして 最終GOEはマイナスが義務付けられます。

C)
上記A)、B)、ともに意図した元のジャンプとして、Well Balanced Program の規定にて、扱われます。
<そのように あえて特記してあるので、ルール 512 全体、つまりザヤック等の規定でもこのように扱われるとも理解できます。>

D)
SOV配点表で、各ジャンプの評価が調整され、ジャンプでは
ダブルのもの 特に 2Lo と 2Lz の基礎点(BV)が上がり、 2Aが下がり
トリプルでは 3T と 3Lo が微増、3S と 3F が減3Aが上がり
クヮドは全てが かなり上がっています
回転不足(UR)のジャンプもこの SOV に表記されました。
<このエントリーの後ろのほうに、新旧の比較一覧を試みておきます。>

E)
ジャンプの GOE にて、加点(+1、+2、+3)、減点(−1、−2、−3)に対応する実数が大幅に調整され、
ダブルジャンプの  加点実数値が平均して半減、 減点も縮小、
2A も              加点実数値が半減、 減点は25%緩和、
トリプルジャンプは 加点・減点、 ともに3割実数値 縮小 (これまでの七掛け)
3A と クヮド は    加点は変らず、 減点は実数値を縮小して、加点側と減点側が同じになりました。

F)
ロングエッジの 「e」 と 「!」 は、「e」 に統一されて演技ジャッジに伝達、
GOE−1〜−3 の評価や、演技にGOE+要素がある場合もなお最終GOEをマイナスにするべき程度かどうかは、ジャッジ側に任されることになりました。

G)
コンビネーションジャンプ や ジャンプシークエンス においては ハーフループ(後ろ向き着氷) が 1Lo として扱われることになり、その場合は、それ自身がコンビネーション/シークエンスを構成するジャンプの個数に算入されることになりました。      

H)
テクニカルパネルから演技ジャッジに 「<」 「<<」 マークが示されることに戻ったことで、 マークの無い場合にジャッジ側が回転が不足気味のジャンプに付けられる GOE−1 が設定されました。

I)
両足着氷の場合の GOE が 「−2」から 「−3」へと厳しくなりました。 最終GOEのマイナス義務はそのままです。

J)
ステップアウトの場合の GOE が 「−2」から 「−2〜−3」へと厳しくなりました。 最終GOEのマイナス義務はそのままです。



ジャンプのベースバリューの新旧の対応表を、頻度の多い部分について作ってみると、以下のようになります。


ジャンプの種類    2T   2S   2Lo   2F   2Lz     2A     3T   3S   3Lo  3F   3Lz     3A      4S

旧シーズンBV     1.3   1.3   1.5   1.7   1.9      3.5    4.0   4.5   5.0   5.5   6.0      8.2      10.3
新シーズンBV     1.4   1.4   1.8   1.8   2.1      3.3    4.1   4.2   5.1   5.3   6.0      8.5      10.5
    同 「<」 BV     1.0   1.0   1.3   1.3   1.5      2.3    2.9   2.9   3.6   3.7   4.2      6.0       7.4
旧シーズン                                        |              |                               |               |
GOE-3〜+3              -1.0〜+1.0          |-2.1〜+3.0|        -3.0〜+3.0        |-4.2〜+3.0| -4.8〜+3.0
新シーズン                     |                 |               |                              |
GOE-3〜+3     -0.6〜+0.6 | -0.9〜+0.9 |-1.5〜+1.5|       -2.1〜+2.1        |       -3.0〜+3.0


☆ ちなみに、3Lz+3Lo のコンビネーションジャンプは、ISU総会議案 183 が恐らく可決されるとすれば、その得点は次のようになります。
    (セカンドジャンプが「<」マーク付になった場合も併記します。)


旧シーズンBV          11.0  これにGOE、計 8.0〜14.0

新シーズンBV          12.2 (BVの合計11.1の 1.1倍) 11.1 これにGOE、計 10.1〜14.3 9.0〜13.2
                             <注:8月公表の Special Regulations において、BVの1.1倍化が否決されたことが判明>

旧シーズン「Lo<」     7.5 これにGOE、計 4.5〜8.5(〜10.5)

新シーズン「Lo<」     9.4〜9.9 8.2~8.9 (BVの合計 9.6の 1.1倍に、「<」のマイナスGOE「-0.7〜-1.4」)
                                      これに他のGOE、計 8.7〜11.3(〜12.0) 7.5〜10.3(〜11.0)
                             <注:8月公表の Special Regulations において、BVの1.1倍化が否決されたことが判明>

その2 へ続く>
 
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2010年05月02日

来シーズンのルール変更の方向性 〜女子SPスパイラル廃止・他〜


来る 6月12日から 20日に開催される ISU 定期総会の議案書が、202ページに及ぶ コミュニケ1609 として29日付で30日、発表されました。
 
http://isu.sportcentric.net/db//files/serve.php?id=1859
 
この中には、予想せざるルール改正案がたくさん記載されていますが、その中でも ISU の理事会や専門委員会からの提出案件は、(加盟各国からの案と違い) 議案の段階とは言え、ISU総会における審議プロセスの規定から考えても、可決実現が濃厚であると思われます。
 
以下、フィギュアスケート女子シングルに関係のある主要議案について、その ISU 自身の提案を中心として、ここに現時点での概観を試みてみたいと思います。
 

 
< ISU提案のうちの注目項目、 重要度順ではなく 議案番号順 >
 
議案43 : (要点概訳、以下同じ)
7月1日時点で15歳以上に達している選手は、シニアの競技に過去のシーズンを含め2回(ただしGPシリーズはシーズン全体で1回と数える)参加した時点で、ジュニア競技への参加資格を失う; フィギュアでは、ジュニアの年齢制限を同13歳以上18歳未満に変更、ジュニア世界選手権の参加資格を同14歳以上、シニアGPFの参加資格をあらたに同15歳以上とする、などの提案。
 
議案48 :
国籍を変更した選手の登録申請について、規定上の用件をクリアしていても、ISU理事会はこれを審議の上で拒否できる権限を持つことを新たに提案。 選手の「輸入」による安易な国家代表補強は ISUルール109の目的にそぐわない、という理由。
 
議案63、議案211 :
フィギュア競技(SP・FS)のスモールメダルを廃止する提案。 一般大衆にとって紛らわしく、また、SP、FS それぞれは個別競技ではない、という理由。
 
議案183 :
コンビネーションジャンプ(ジャンプシークエンスではない)のベースバリューを 1.1倍にし、GOE は難しいほうのジャンプの数値で全体を採点するという提案。  個別ジャンプよりも難度が高いという理由。
 
議案189 :
衣装(および小道具)規定違反の減点を−3とし、衣装等の一部が氷上に落ちた場合の減点を新たに−1とする、という提案。 観衆の注目が演技よりも衣装に集まることを防止する、という理由。
 
議案266 :
コンビネーションジャンプやジャンプシークエンスにて、ハーフループにループのベースバリューを与える、という提案。
 
議案268 :
シニア女子のショートプログラムにて、スパイラルを必須要素から外し、演技要素を計7に減じる、また、必須要素のアクセルジャンプは2Aでも3Aでも良い、という提案。
 
議案269 :
この議案268のうち、女子シングルについては、 上記3Aが演じられた場合は コンビネーションジャンプの中には3Aは入れられない、 ステップシークエンスの中ではレベル表に無いジャンプは自由に演じられる、 スパイラルが演じられた場合はつなぎ(Transition)として扱われる。 
 
議案270 :
フリープログラムにおいては、2Aはシングルジャンプ・コンビネーションジャンプ・ジャンプシークエンスのいかんに係らず、計2回までしか演じられない。
また、スパイラルは3秒以上姿勢を保持した2つのポジション または 6秒以上保持した1つのポジション以上で構成されねばならず、これを満たさない場合は点数が与えられず、また満たした場合はレベル段階の無い固定されたベースバリューのみ与えられ、評価はGOEで定められる。
 

 
<加盟国(個別連盟)による提案のうちの注目項目、 重要度順ではなく 議案番号順>
 
議案59(日本提案) : (要点概訳、以下同じ)
ヨーロッパ選手権 あるいは 四大陸選手権に出場した選手は、世界ジュニア選手権には出場資格を無くす、という提案。 ジュニア選手の健康に配慮し、日にちの接近による過大負担を避けるという理由。 「賛成しない」という理事会意見が、議案43の中に同じ精神の提案があることを理由に、付いている。
 
議案163(オーストリア提案)、議案164・182(カナダ提案)、議案165(ロシア提案)、議案166(米国提案) :
ジャッジの採点のうち無作為抽選で2人分を不採用とする現行方式をやめる提案。
オーストリア案と米国案は最高と最低の採点の不採用は現行どおり、カナダ案は主要大会で最低9名および審判団の大きさに応じた最高と最低の不採用数の調整、ロシア案は9名の全採点の採用と補欠ジャッジの必要を主張、米国案は9名でなく12名および補欠を主張。
 
議案185(デンマーク提案)、議案186(フィンランド提案)、議案187(ノルウェー提案)、議案188(スウェーデン提案) :
ショートプログラムで、2分経過以降のジャンプのベースバリューを 1.1倍とする提案。
 

 
その他 ISU からは、ISU選手権における 下位選手の予選(Qualifying Round)の実施や、参加資格としての最低得点経験が提案されていたりはしますが、安藤選手ほか、日本の女子シングル選手に影響のある提案は、上記の中にあるものが主要であると考えられます。
 
スパイラルのショートプログラムでの必須要素からの除外は、一昨シーズンのFSでの必須スピンの減少と同様、つなぎ(Transition)重視の表れであることは間違いないでしょう。 実際、これまでの現実のジャッジングの傾向もそうなっていると思われます。
ステップシークエンスでの、リスト外ジャンプの採用自由化ともども、演技そしてスケーティング自体の巾を確保するものであると同時に、体力的には要求度が上がっているとも考えられるのではないでしょうか。
 
これらの提案がそのまま実現されるかどうか、総会のゆくえが注目されます。
 
皆様はどうご覧になるでしょうか。
 
posted by administrator at 19:28 | TrackBack(1) | ISUルール関係 | 更新情報をチェックする