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先日のコミュニケ 1609 で発表された総会議案書の各提案 (重要なものは こちら ) が、それぞれ期限前に提出された正規のものであるのに対し、 こちらは期日後に追加提出されたもので、総会出席の8割以上の投票権者(国)の認証があれば議題として扱われる、というもののようです。
そして案件自体の緊急性の有無にかかわらず、期日の関係で「緊急事項」と命名されています。
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このコミュニケ 1615 の中に、フィギュアに関するものとして、ISU 理事会の提案・フランスの提案・日本の提案、それぞれ1つずつがあります。
ISU 理事会からの追加提案の趣旨は、五輪競技に フィギュアスケートの団体戦が組み込まれた場合は、ISU 理事会が IOC と協議の上、その実施上および技術上の詳細を定める、というものです。
フランスからの追加提案の趣旨は、五輪開催年については ヨーロッパ選手権と四大陸選手権を中止し、その時期に世界選手権を持って来る、というものです。
そして 日本からの追加提案は、これまで ISU ルールに規定されているにもかかわらず実際に運用されたことの無い ボーナス点の制度 について、その獲得条件を少し変更することで、スケーター達の積極的挑戦を促そう、という趣旨のものです。
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この日本の提案だけは たしかに、「緊急事項」の名に値するかもしれません。
というのは、実は ISU 技術委員会から ボーナス点制度の廃止が 既に今回、他の重要議案とともに提起されていて、ISU 側の提案であるがゆえに、その廃止案が通る可能性が たいへん大きいからです。
これまでの ISU 規定では、ボーナス点について次のようになっていました。 (これまで適用実例はありません。)
[ Rule 353, paragraph 1) h) iv) ]
革新的な演技要素、動作、あるいはトランジション(つなぎ)には特別ボーナスの2点が与えられる。
このボーナス点は一つのプログラムにつき1回しか獲得できない。
[ 同 1) h) v) ]
ボーナス点は(もし獲得された場合は)Total Technical Score(おそらくTESに同義)に加算される。
[ Rule 522, paragraph 1 e) ]
ボーナス点
他に例が無く、特別な、そして革新的な動作*(* 広義)には、Well Balanced Program の規定の要素数以内であれば、あるいは同規定に挙げられていない特異なものであれば、ボーナスとして2点が与えられる。
これは、同じ技をやる他のスケーター/ペアがいないというのでないかぎり、最大1シーズンの間しか与えられない。
同一試合で同じ技を行うスケーター/ペアがいた場合、双方にボーナス点が与えられるが、その場合はその競技以降は、この技へのボーナスは与えられなくなる。
ボーナスは テクニカル・スペシャリスト(達)がこれに該当する場合に指摘し、テクニカル・コントローラーがこれを確認し、ISU の事務局に直ちに報告する。
これを、JSF は次のように変えるよう提案しています。
[ Rule 353, paragraph 1) h) iv) ]
類を見ない演技要素、そしてその日実施された最も難度の高い演技要素には、ボーナス2点が与えられる。
ボーナスは一つのプログラム内では最大2つ与えられる。
該当する演技要素は予め技術委員会で定め、シーズンの始まる前に ISU コミュニケの中に記述される。
提案理由として、難しい技への挑戦の意義が強調されています。
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ボーナス点制度の廃止は、今回 ISU の技術委員会から出された総会議案 184、227、230、251 に謳われており、「これまで利用されたことがなく、実際的でない」 という理由が挙げられています。
これに対し、日本からの提案は、「では実際的なレベルで利用できるようにして初期目的を果たそう」 という趣旨の訴えをもって、廃止を食い止めようとするものと思われます。
賛成国が多いかどうかで考えると、日本の提案にはプラス・マイナス、両面がありそうです。
プラスの面 :
ご記憶の方も多いと思われますが、2〜3年前には、3回転ジャンプを5種類全て一つのプログラムで成功させた場合はボーナス点を与えるべきだ、という議論が頻繁にありました。
ボーナス点が競技参加者の全体的水準を上げるインセンティブとして機能するであろうことは、この例からも、容易に想像できますし、誰もが反対しにくい側面です。
マイナスの面 :
ボーナスの適用にあたり、技術的な難度に重点を置いている提案とも読めるため、他の国にとってはジャンプへの日本の偏り、自国の有利化と感じられる可能性があると思われます。
たとえば 3Aに対しボーナスをさらに与えよ、という提案のごとく受け止められると、反対者が多くなるかもしれません。
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ISU 自身からの提出議案と異なり、そもそも、各加盟国からの個別提案が総会で承認採用に至るということはあまり無いようですし、この日本の追加提案には Rule 522 についての関連事項が伴っていないなど、暫定的な記述の様相がみられるので、審議に付されるかどうかもよく判りません。
ここは今度の総会での勝算の有無で評価するよりも、今後のボーナス制度再検討への基礎的な布石として把握するのが妥当かと思われます。
なかでも、日本の追加提案に付記されている、提起理由の部分には、普遍的な説得力があると思われます。
「それぞれの時代にあって、より難度が高い内容を思い描きこれに挑戦することは、フィギュアスケートが競技である限り、選手にとって普通の考えに違いない。 フィギュアの発展のために、競技の規則はその心意気を支え、難しい挑戦が成功した場合にはこれを適切に評価するものでなくてはならない。」
これが ISU のコミュニケに載っていることに、頼もしさを感じました。 選手を鼓舞し、チャレンジを促す方向でのルール改正が、フィギュアスケートという競技そのものへの注目、関心を集め、そのさらなる発展に寄与するものであることは、まちがいないだろうからです。