2010年06月21日

時空を越えて 〜Cleopatra as a figure skater〜

世界選手権での感動的なクレオパトラの演技が終わった時、もうこれで見納めかと思われたファンの方々も多いかと思います。 安藤選手のフリープログラムと言うに相応しい、彼女の競技シーズン最高の、そして入魂の演技でした。
 
実際、安藤選手はこの演技でフリーのスモールメダルを獲得し、また「誰が表彰台の総合3位に上がるべきだったか?」という 海外の有力サイトでのアンケート設問でも 他を大きく引き離しています。
この時点で、このプログラムはその役目を十分に全うした形とも言えるでしょう。
・・・
しかし幸いなことに、クレオパトラはこれが見納めでは全くありませんでした。
 

 
このプログラムが日米双方の SOI でのエキシビションナンバーとして再演されることになった時、ふと、去年夏の、Stars, Stripes and Skates での初演のことが脳裏を過りました。
この慈善イベントでの安藤選手は久々に水を得た魚のごとく新しいプログラムを楽しんでいるように感じられたものです。
あのときの開放感に満ちた彼女にまた会えるのではないか、そんな想いが募り、また、フリーの構成要素をどれくらい再現したバージョンになるのかにも、興味を引かれることになりました。
 
そして実際にこの演技を生で観賞する機会を4月に得ました。 はや2ヶ月も前のことです。
 

 
暗転したリンク上・・。
スポットライトがその姿を浮かび上がらせた瞬間から、安藤選手は会場の空気を支配していました。
 
それは、五輪とトリノという二つの呪縛を、自らの手で断ち切った安藤選手が放つ、圧倒的なオーラのせいかもしれません。
 
リンク全体のライティングも、我々が一般的に抱いているナイルのイメージをうまく再現しており、その中を、エメラルドグリーンバージョンの衣装に身を包み、スワロフスキーを煌めかせながらスピードに乗って滑走する安藤選手は、表情は確認できなくともその躍動感から、楽しげで、活き活きとしているのがみてとれました。
 
この日の演技構成は、フリーのものとほぼ同じだったように記憶しますが、やはり圧巻だったのは後半の4連続ジャンプでしょう。
練習では5連続ジャンプすら難なくこなす安藤選手のこと、4連続なら雑作もないことかもしれませんが、驚嘆するほかありませんでした。
 
安藤選手の演技は、クレオパトラの物語を濃密に表現しているにもかかわらず、あっという間に過ぎてしまった、そんな4分間だったように思います。
帰路につくまで、その陶酔感から醒めることはありませんでした。
 

 
その後、韓国のショーでも安藤選手はこの EX 版のクレオパトラを演じ、シーズンを締めくくることになります。
その演技は、映像をご覧になった方はお分かりのように、かつてこのプログラムに寄せられたいくつかの批判に全て応えるような、さらに歯切れの良さを増したもので、来る新シーズンへの期待を一気に高めてくれるものとなりました。
 
藤森 ISU 国際審判員が、五輪での演技について 「クレオパトラを表現するという部分が審判団に評価されにくかった、衣装などの工夫は本来的でないのでは?」 という趣旨の辛口の感想を World Figure Skating に当時、寄せていますが、安藤選手のこれら最新の演技は、「役柄の表現」をむしろ意識させないくらいに「舞そのもの」に彼女が没入していて、それが観る者にこの衣装を十分以上に納得させるに至っており、当時のそうした視線を今や覆して余りあるものがあります。
 
あるいは、このプログラムが音楽のリズムを有効に利用していない、という論調もあったのですが、ステップに合せることの相当難しそうな後半のマルコ・ポーロのリズムでさえ、これらの演技では みるからに安藤選手は体の芯から拍子をとらえ、シンコペーションも明快に刻んで会場全体を一体とするに至っています。
 
ここまでの進化の背景には、(ショーの企画サイドから再演の依頼があったにせよ)安藤選手の このプログラムへの想い入れがよほど強くあったのではないかと思われてなりません。
 


「クレオパトラ」という作品の完成に向けた彼女のその想いは、シーズンが入れ替わる今ようやく、こうして思わぬ形で遂げられたのではないでしょうか。 エキシビションでの再演が思わぬ洗練の機会となった、という意味だけではありません。
 
予期し得なかったのは、氷上にクレオパトラ7世という古代のイメージではなく、むしろ「安藤美姫」のたとえようもなくリアルな存在感が満ち溢れた時に、かえって生身のクレオパトラを 彷彿と観る者に現在形で感じさせる、そのことが演技で確かめられるようになった点。
これこそがこのプログラムの完成の証と思われます。
 
・・・
この欄に以前いただいた寄稿の中に、このクレオパトラというプログラムもまた、「心の中の記憶という場所に永遠の生命として生き続けるべく捧げられたレクイエムである」 という視点が提示されていました。

おおいに頷けるとともに、その主人公クレオパトラのクレオパトラたるゆえんを 我々の記憶にこうして美しく刻むことができるのは、やはり安藤選手ならではの類稀なオーラと情熱をおいて 他にはあり得ない、
そう言い切れるのではないでしょうか。
 
その彼女が新シーズンのプログラムを見せてくれる日も もう間近です。



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2010年06月19日

ISU 総会の結果 (*コミュニケ 1619 追記あり)

ISUの総会はその議事を終え、かなり簡略化された概要紹介が公式サイトに掲示されました。

http://www.isu.org/vsite/vcontent/content/transnews/0,10869,4844-128590-19728-18885-308030-3787-4771-layout160-129898-news-item,00.html

ここに書かれているのは、

― アイスダンス競技が ショートダンス(新) と フリーダンス の2つで構成されるという変更の可決
― ISU選手権における 下位選手の予選(Qualifying Round)の実施と参加資格としての最低得点経験の条件付加、そしてフリースケートの定員の減
― World Team Trophy (国別対抗戦) の ISUルール上の位置付けの明確化
― ISU の理事会・スポーツ重役会・技術委員会からの「諸提案」の可決

であり、また選挙結果も書かれていますが、
後者にては チンクアンタ会長の最後の再選や、日本の平松女史の理事当選を読むことが出来ます。



その他、ここには書かれていませんが海外メディアが伝えるところでは、カナダが提案していた、採点基盤としての員数不足の解消を目的とした、演技審判の無作為抽選の廃止も、賛成多数で可決されたようです。
また、シニアとジュニアの年齢規定を変更する ISU 提案は否決されたとのことです。(ノービスに関する提案部分は承認された模様。)

また、日本のメディアが報じたものとしては、上記のうち、女子シングルのSPにおいて、2Aの代わりに 3Aが選択できるようになったこと(*) (注:その場合はコンビネーションで3Aを跳ぶことはできない)、また日本からの提案であった、その日最も難度の高い演技要素にボーナス点を与えるというのは否決されたことが挙げられます。



議案の審議結果の詳細が ISU等から報じられた場合は、ここに加筆しますが、可決されたことが現時点で推定されるもののうち、一部を列記しておきます。

― コンビネーションジャンプ(ジャンプシークエンスではない)のベースバリューを 1.1倍にし、GOE は難しいほうのジャンプで採点。 <注:8月公表の Special Regulations において、否決されたことが判明>

― コンビネーションジャンプやジャンプシークエンスにて、ハーフループにループのベースバリュー付与。(*)

― シニア女子のSPにて、スパイラルを必須要素から外し、演技要素を計7に削減。(*)

― 同SPにてステップシークエンスの中ではレベル表に無いジャンプは自由に演じられ、スパイラルが演じられた場合はつなぎ(Transition)として評価。(*)

― フリープログラムにおいては、2Aはシングルジャンプ・コンビネーションジャンプ・ジャンプシークエンスのいかんに係らず、計2回までしか演じられない。
また、スパイラルは3秒以上姿勢を保持した2つのポジション または 6秒以上保持した1つのポジション以上で構成されねばならず、これを満たさない場合は点数が与えられず、また満たした場合はレベル段階の無い固定されたベースバリューのみ与えられ、評価はGOEで定められる。 (*)

<以下、24日夜 追記>

6月24日に、ISU コミュニケ 1619〜1621 が発表され、そのうち 女子シングルに関わる 1619
http://isu.sportcentric.net/db//files/serve.php?id=1892
に記載されたことを確認しますと、上記のうち、(*) を付けた5項目の内容が明記されています。
<男子等については省略します。>

なお、「コンビネーションジャンプ(ジャンプシークエンスではない)のベースバリューを 1.1倍にし、GOE は難しいほうのジャンプで採点。」 については、このコミュニケにては確認できません。 <注:8月公表の Special Regulations において、否決されたことが判明>

今後、「ISU Rules」 http://www.isu.org/vsite/vnavsite/page/directory/0,10853,4844-153889-171105-nav-list,00.html
にて全容が掲載されるのを待ちたいと思います。

なお、今回の 1619 には、次のようなことも書かれています。

― ジャンプとジャンプがレベル表に無い種類のジャンプで繋がれた場合は、シークエンスとして扱う。(注:コンビネーションとは配点係数が異なる)

― 単一スピン および (足換えや姿勢変化の無い)フライングスピンにおける、最終のアップライトの締めくくりは、回転数がいくつであれ、姿勢変化には (エッジ換えや姿勢のバリエーション等の付加内容が無い限り) 計上しない。

― いかなる演技要素においても、規定外の内容が含まれる場合は、規定外要素の減点が適用される。レベル1以上の要件が見たされればレベル1が与えられ、そうでない場合はレベルが付かない。

― 国際競技においては、主催国の国内テクニカルスペシャリストをその競技のアシスタントテクニカルスペシャリストとすることができる。 この場合 その指名はその加盟国にて行わねばならない。

― 「演技開始のやり直し」に対しあった減点−2 は廃止し、代わりに PCS にてマイナスに評価されることが望まれる。

― 減点に付いて:
    a) 衣装・制限時間の違反と 声楽についての減点(各−1) は、レフェリーと演技審判団との合計の多数決により、票が同数の場合は減点無しとする。
    b) 転倒と規定外要素についての減点は、テクニカルパネル(3名)の多数決による。

<ペア等に関する記述、審判員の会議参加に関する記述、ISU選手権参加資格点数については省略。  追記は以上です。>

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