2010年05月09日

ISU 1611の概観 (その1 〜ジャンプ)

ISU は 6日に、4日付の コミュニケーション 1611 を発表し、7日夜、日本でもいくつか報道がありました。
 
この 1611 は何の発表かと言うと、
   1) 一昨年のコミュニケ 1494 の Scale of Value (SOV、各演技エレメントの価値尺度表)の改訂
   2) 昨年のコミュニケ 1557 の レベル獲得条件表改訂
   3) 同 1557 の Grade of Execution (GOE)の減点表改訂
そして、
   4) 同 1557 の GOE 加点ガイドラインのそのままの継続、であり、
新しい 2010‐11 シーズンから適用されるものです。

2)は テクニカルパネル(技術審判員)が、
3)と 4)は ジャッジ(演技審判員)が、それぞれ依りどころとし、
これらの 採点集計上の実点数が 1) となります。

そして、これは一つ前のエントリーでご紹介した コミュニケ 1609 (ISU総会議案書)のルール変更案とは異なり、ISUルール353 の「運用」ということで 加盟国の採決を通さず、ISUが直接発行する形をとっています。
ただし一部に 総会議案との連動があるので、今年は例年と異なり、総会後、6月後半の発効になるのではないかと想像されます。

<なお、フランスがこうした SOV等を 「運用」でなく ルール353 に包含させ、審議の対象とするよう、今回の総会に 議案161 として提起していますが、仮に採用されても、その次のシーズンからになると思われます。>



さて、ニュースで強調されていた内容は、今回の変更の一部にとどまりますので、以下、簡単に概観を試みたいと思います。

全体的にまず言えそうなのは、今回の改定が、テクニカルパネルの判断を減らし、演技ジャッジの判断を増やす方向にありそうだ、という点です。

[ジャンプ関連]

☆ 来シーズン、テクニカルパネルが ボーダーラインのジャンプを、悩まずに 回転不足扱い(BV7割)にする という可能性、 あるいは今回の文言 「離氷 および/または 着氷」 の読み方しだいでは、これまで以上に1段階ダウングレードを選手が取られやすくなる可能性も、考えられなくはありません。

2Aの反復の抑制と、高難度ジャンプ挑戦の奨励を、基礎点数から読むことができます。

行きすぎた加点の抑制、また高難度ジャンプ失敗のリスク軽減も同様に読み取ることができそうです。


A)
ジャンプの 離氷 および/または 着氷 において 意図した回転数より 1/4回転を超え 1/2未満 の(合計?)不足の場合は 「回転不足(UR)」として扱われ、その 「<」 マークは 演技審判の採点にあたり開示されます。
ベースバリューは 0.7倍 扱い。
GOE は +、−、ともに もともと意図したジャンプのものを適用し、 「<」による GOEマイナスは −1〜−2、 ただし 最終GOEは自由。

B)
ジャンプの 離氷 および/または 着氷 において 意図した回転数より 1/2回転以上 の(合計?)不足の場合は 「ダウングレード(DG)」として扱われ、その 「<<」 マークは 演技審判の採点にあたり開示されます。
ベースバリューGOE、ともに 意図より1回転下のジャンプとして扱われます。
「<<」による GOEマイナスは −2〜−3、 そして 最終GOEはマイナスが義務付けられます。

C)
上記A)、B)、ともに意図した元のジャンプとして、Well Balanced Program の規定にて、扱われます。
<そのように あえて特記してあるので、ルール 512 全体、つまりザヤック等の規定でもこのように扱われるとも理解できます。>

D)
SOV配点表で、各ジャンプの評価が調整され、ジャンプでは
ダブルのもの 特に 2Lo と 2Lz の基礎点(BV)が上がり、 2Aが下がり
トリプルでは 3T と 3Lo が微増、3S と 3F が減3Aが上がり
クヮドは全てが かなり上がっています
回転不足(UR)のジャンプもこの SOV に表記されました。
<このエントリーの後ろのほうに、新旧の比較一覧を試みておきます。>

E)
ジャンプの GOE にて、加点(+1、+2、+3)、減点(−1、−2、−3)に対応する実数が大幅に調整され、
ダブルジャンプの  加点実数値が平均して半減、 減点も縮小、
2A も              加点実数値が半減、 減点は25%緩和、
トリプルジャンプは 加点・減点、 ともに3割実数値 縮小 (これまでの七掛け)
3A と クヮド は    加点は変らず、 減点は実数値を縮小して、加点側と減点側が同じになりました。

F)
ロングエッジの 「e」 と 「!」 は、「e」 に統一されて演技ジャッジに伝達、
GOE−1〜−3 の評価や、演技にGOE+要素がある場合もなお最終GOEをマイナスにするべき程度かどうかは、ジャッジ側に任されることになりました。

G)
コンビネーションジャンプ や ジャンプシークエンス においては ハーフループ(後ろ向き着氷) が 1Lo として扱われることになり、その場合は、それ自身がコンビネーション/シークエンスを構成するジャンプの個数に算入されることになりました。      

H)
テクニカルパネルから演技ジャッジに 「<」 「<<」 マークが示されることに戻ったことで、 マークの無い場合にジャッジ側が回転が不足気味のジャンプに付けられる GOE−1 が設定されました。

I)
両足着氷の場合の GOE が 「−2」から 「−3」へと厳しくなりました。 最終GOEのマイナス義務はそのままです。

J)
ステップアウトの場合の GOE が 「−2」から 「−2〜−3」へと厳しくなりました。 最終GOEのマイナス義務はそのままです。



ジャンプのベースバリューの新旧の対応表を、頻度の多い部分について作ってみると、以下のようになります。


ジャンプの種類    2T   2S   2Lo   2F   2Lz     2A     3T   3S   3Lo  3F   3Lz     3A      4S

旧シーズンBV     1.3   1.3   1.5   1.7   1.9      3.5    4.0   4.5   5.0   5.5   6.0      8.2      10.3
新シーズンBV     1.4   1.4   1.8   1.8   2.1      3.3    4.1   4.2   5.1   5.3   6.0      8.5      10.5
    同 「<」 BV     1.0   1.0   1.3   1.3   1.5      2.3    2.9   2.9   3.6   3.7   4.2      6.0       7.4
旧シーズン                                        |              |                               |               |
GOE-3〜+3              -1.0〜+1.0          |-2.1〜+3.0|        -3.0〜+3.0        |-4.2〜+3.0| -4.8〜+3.0
新シーズン                     |                 |               |                              |
GOE-3〜+3     -0.6〜+0.6 | -0.9〜+0.9 |-1.5〜+1.5|       -2.1〜+2.1        |       -3.0〜+3.0


☆ ちなみに、3Lz+3Lo のコンビネーションジャンプは、ISU総会議案 183 が恐らく可決されるとすれば、その得点は次のようになります。
    (セカンドジャンプが「<」マーク付になった場合も併記します。)


旧シーズンBV          11.0  これにGOE、計 8.0〜14.0

新シーズンBV          12.2 (BVの合計11.1の 1.1倍) 11.1 これにGOE、計 10.1〜14.3 9.0〜13.2
                             <注:8月公表の Special Regulations において、BVの1.1倍化が否決されたことが判明>

旧シーズン「Lo<」     7.5 これにGOE、計 4.5〜8.5(〜10.5)

新シーズン「Lo<」     9.4〜9.9 8.2~8.9 (BVの合計 9.6の 1.1倍に、「<」のマイナスGOE「-0.7〜-1.4」)
                                      これに他のGOE、計 8.7〜11.3(〜12.0) 7.5〜10.3(〜11.0)
                             <注:8月公表の Special Regulations において、BVの1.1倍化が否決されたことが判明>

その2 へ続く>
 
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