4月末、フジテレビの「特だね」に収録された安藤選手は、カメラの前で新しいスケート靴を下ろしていました。
世界選手権のあと、初めて全国メディアに姿を見せてくれた時の彼女です。
「新しい靴は固くて嫌いなんです」と言いつつ、しかしその表情は言葉と裏腹にとても嬉しそうに見えました。 真新しい純白の靴でした。
スケート靴は、思えばスケーターとリンクとの文字どおりの接点であり、競技においては成績を左右する肝心な要素の一つに違いないだろうと想像します。
履き心地はもちろん、その重量や堅牢度も、選手の滑りの質を支配するでしょうし、靴自体の疲労で本来の力が発揮できなくなるケースもあるようです。
ディープエッジという、スケーティングの上質を形容する言葉に示されるように、恐らくはブレードの研磨の仕方にも、選手のこだわりがあるのだろうと、これまた想像します。
筆者はふと逆に、選手のこだわりは靴を見れば多少はつかめることもあるのではないか、と思いました。
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ボレロを踊る安藤選手の白い靴。
あれからおよそ ふた月の後、彼女はアイスショーにも この白い靴で登場しています。
そこには彼女の「初心に帰ろう」という強い想いが込められている、そう感じられてなりませんでした。
そしてその彼女の初心とは いつに遡るのかも、知りたい想いに駆られました。
安藤選手の過去の写真を年代をなぞって見ていくと、トリノのシーズンまでは白い靴です。
それがライトブラウンになった時、彼女は再起を誓いつつ、大人への成長をそのブラウンに託したのではないか、
そんな勝手なイメージを抱きます。
ブレードを見ると、ジュニアで海外に打って出た時代には金色です。
これは ご自身が当時インタビューで「金は勝者の色だから」という趣旨の発言をされていて、その時代、「勝つ」ことが安藤選手にとっての素直で自然な指標だったかと思われます。
そして彼女がシニアに上がるとブレードはやがてシルバーとなり、勝つという指標よりも滑りの表情を追究するようになったのを、そのことは表しているようにも感じられました。
白い靴の初心、それはシニアとしてのスタート時点かな、いや一番昔、本当の端緒のころなのかな、と観る側の特権で、心をさまよわせてみたりします。
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The ICE の記者会見場、安藤選手は今シーズンの抱負を問われて、こう答えています。
「もう本当に、すべて一からやり直すという気持ちで、今やっています。」
浅田真央選手の隣に座り、くつろいだ仲良い空気のなかで、それは本心からの正直な言葉として響きました。
安藤選手が白い靴と共に迎えた新しいシーズン、すべてのファンの応援が新鮮な風となって彼女の心に届くことを、願わずにいられません。